八木牧場 宮崎県都城市

牛がいつでも心地いいように 一年一年いい環境づくりを目指して

「牛の気持ちになって考えるんですよ」。インタビュー中、八木牧場の2代目・八木弘美さん(56)は何度も、「牛の気持ち」という言葉を口にしました。「私が牛だったら―」と思いを巡らせる言葉に、大きな愛情を感じます。

戻し堆肥の利用に手ごたえ

八木牧場は、フリーバーン(放し飼い)という形態をとっています。大きな特徴は、床の敷料に戻し堆肥を使っていること。戻し堆肥とは、乳牛などの生ふんに、水分調節資材を混合して発酵させた堆肥を、再び牛舎の牛床の敷料や水分調節資材として利用することです。処理施設で堆肥を撹拌して発酵させることで、微生物の働きによって臭いもなくなります。牛舎をのぞくと、牛たちが横になって寛いでいるところでした。

弘美さんは「戻し堆肥は、牛にとっても、いいという気がしています」と手ごたえを感じています。現在、飼育する頭数は150頭余り。毎朝の掃除や搾乳、飼料のトウモロコシやイタリアンライグラスも作っており、忙しい仕事ですが、「酪農ヘルパー制度を利用することで、定期的な休暇を取ることや労力の軽減を図っていますよ」と笑顔で話していました。

品種改良のデータを蓄積

次男・辰哉さんは、農業大学校を卒業後、また一時就職していた三男・涼太さんも相次いで帰郷し、一緒に仕事をするようになりました。二人とも家畜人工授精師の資格を持っており、飼養管理や品質向上に余念がなく技術のレベルアップに努めています。「乳量と体型を観察しながら、掛け合わせを考えています。繁殖に関するデータもパソコンに蓄積していて、考えた通りだった時は、やっぱりうれしいですね」と話します。1年以上の成績を見なければ、簡単には結果が出せない仕事。データを蓄積して約3年。これからの成果が楽しみです。八木牧場では、こうした形で受精卵移植技術を取り入れて繁殖管理を行っており、積極的な品質改良に努めています。

フリーバーンの形態は、規模拡大にも適するそうです。「糞尿処理の施設の拡大も併せて、頭数を考えていきたい」と弘美さん。2つの群れがあり、群れの中での牛の様子や、歩き方を見ると、健康状態がよく分かるのも利点といいます。

「健康な牛から出る生乳がいい牛乳になる。牛の環境も1年1年、少しずつでも、良くなるようにしていきたいです」。皆さんの柔らかな笑顔に、これからの酪農への自信があふれていました。

取材・ライティング:Yuko Kawagoe