OKI牧場 鹿児島県熊毛郡中種子町(種子島)

姉妹で8年前から酪農家に 乳牛と向き合うほどに手応え大きく

勝幸さんを中心に、姉の由美子さん(右)と妹の恵里子さん

OKI牧場は1頭から酪農を始めたという父親の興勝幸さん(71)から受け継ぎ、現在は3姉妹のうち2人へと託されている。主に牛群の管理、獣医への連絡を担当する姉の由美子さん(45)と、事務・経理を担当する妹の恵里子さん(43)。鹿児島市でそれぞれの生活を営んでいた2人は、あるきっかけで種子島に戻り、酪農を始めた。今では「牛を丁寧に見ていくほどに、日々のちょっとした違いも分かるようになってきました」と、酪農にすっかりはまっている様子だ。

母の看病のため種子島へ

2013年春、新たに北海道から15頭が入った。増舎したばかりの畜舎

「父親は誰かが継いでくれればと望んでいたようでしたけど、母親は苦労をさせたくないと思っていたみたいです」と由美子さんは振り返る。
2人が種子島に戻ったのは2004年。母親の八重子さん(享年61)が突然の事故に見舞われて入院し、看病をするためだった。畜舎を大きくしたばかりということもあり、勝幸さんとともに、当初は「1年間だけ」という約束で牛の世話をするように。2人はそのまま酪農を続け「悔しいほど父の思い通りになった(笑)」。その当時40頭ほどだった規模を、現在は搾乳牛150頭にまで拡大。育成・保育に加え、北海道や鹿児島県鹿屋市に預託している牛まで合わせると、総数230頭にも上る。

「父には聞かれたくないけど」と笑いながら「大変だけど、今はやったことに手応えがあると感じています」と笑顔で目を見合わせる。

法人化し大きなメリット

以前、泊まりに来た友人がお礼に描いてくれた看板。OKI牧場の入口は、この看板が目印

8年前に勝幸さんから恵里子さんへと経営を委譲し、2012年、法人化に踏み切った。資金繰りや社会的信用などの面でメリットがあると感じている。仕事は家族3人に加え、専業従業員2人、搾乳アルバイト1人が担当している。ほぼ女性という環境。女性が育てると、穏やかな性格になることが多いそうだ。「(畜舎は)フリーストールなので、餌の食べ方にも勝ち負けが出てきて、穏やかだと心配な面もあるけれど」と親のように牛を心配する2人。「物を言わない牛の体調を見逃すと、病気や発情など影響は大きいです。それが分かってきて、ここ最近は休暇がとれなくなってしまった」と苦笑いする。
恵里子さんの長女・恵里香さん(13・中学2年)は、そんな家族の様子を見て「私が継ぐしかないんでしょう」と話しているという。「吹奏楽部の練習で忙しくて、今は牛舎に近づかないけど、種子島高校の生物生産科の先輩に話を聞いているようです」と恵里子さん。女性が守る牧場、何とも頼もしい限りだ。

磐石な耕蓄連携、情報共有も積極的に

種子島独特の敷料・山砂50tが積んであった。この頭数だと、消費する量も大量だ

OKI牧場は、飼料も約7割を自給している。トウモロコシ、イタリアンライグラスを育て、自社農場だけで16町歩という広さだ。糞尿を堆肥として使う安納芋の業者と提携し、種芋のツルも飼料としている。耕畜連携が進む種子島のメリットを活かし、高騰する購入飼料の経費を抑えている。10年後、20年後を見据え、あと20~30頭は増やすというのが目標。牛の体格のバランスを考えて飼料の配合を調整したり、乳量・乳質を過去のデータと比較したり、数値の管理も徹底している。「酪農家同士でよく集まって、情報を共有できるのがありがたい」と由美子さん。今後については「維持していくと同時に、育成までやっていきたい」(恵里子さん)、「後継牛を残して、競りにも出荷していきたい」(由美子さん)。2人の言葉に、種子島の酪農も守っていくという覚悟を感じた。

取材・ライティング:Yuko Kawagoe