榎元牧場 鹿児島県西之表市(種子島)

健康管理、搾乳、繁殖、飼料作り すべて一人で行い牛と向き合う

榎元牧場は、親子2代、約60年前から続いています。榎元勝己さん(81)が3頭から酪農で起業し、現在は次男・勝志さん(51)が受け継いでいます。取材中、妻・海艳(はいえん)さん(28)に抱かれてやってきた優鷺(ゆうろ)君(1)は、牛が大好きな様子。頼もしい後継者の登場に、勝志さんも勝己さんも目を細めていました。

個体の能力を上げること目標に

今は、牛が大好きという1歳4ヶ月の優鷺君が家族の中心に

勝志さんは農業大学校で酪農を学び、すぐにこの道へ。現在、成牛20頭、育成牛13頭を養っています。日々の健康管理から1日2回の搾乳、1日4~5回の給餌、さらに飼料用作物を作る畑作業まで、一人ですべての仕事をこなしています。「1人では今の頭数でいっぱい。それぞれの個体の能力を上げていきたい」と話し、さまざまな工夫を加えています。繁殖も自分で行い、親牛の餌を管理しているほか、体格のいい牛が生まれるよう改良を続けてきました。性判別された精液を使うことで、雌牛が生まれる確率も90%ほどになったといいます。

敷料や飼料に工夫を

給餌は1日4、5回行います。昼は主に畑作業をこなし、ほぼ自作の飼料を与えています

榎元牧場の牛たちは、マットに寝そべり心地良さそうにしていました。「以前はゴムのマットを使っていましたが、今の(反発性の低い)マットに変えてから、牛の関節が痛まなくなったようです」。また、飼料は、冬季はイタリアンライグラスやサトウキビのトップ、夏はローズグラス、スーダングラスなどを与えています。5町歩ほどで飼料作りをし、サトウキビは堆肥と交換しています。そして、種子島ならではの廃糖蜜を水で薄め、飼料に混ぜるのもポイントです。「牛の食いがいい。腹持ちもよくなります」と1年中、与えています。種子島産の廃糖蜜は、島外へは持ち出し禁止だそうです。種子島の酪農になくてはならないものなのです。「なめてみる?」と勝志さんに差し出され、私たちも一なめさせてもらいました。牛に好まれるというお味は……、とっても苦かったです。「人間にはねぇ」と勝志さんも笑っていました。

地域活動にも熱心に取り組む

サトウキビ精製後に出る廃糖蜜。種子島の酪農にはなくてはならない独特の飼料の一つ

勝志さんは、酪農に専業し、牛たちを丁寧に見ています。畜舎の清掃や体を清潔にしておくことなどは、病気を寄せ付けないためにも大切。搾乳前には、毎回、尾をきれいに洗っているといいます。乳質をよく、乳量を上げてと日々、牛と向き合い「少しゆっくりできるのは雨の日の夜ぐらいかな」と勝志さん。そんな中でも、種子島の共済組合副委員長や地域活性化推進員などを引き受け、地域活動にも飛び回る毎日です。

取材・ライティング:Yuko Kawagoe